東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)70号 判決 1968年12月09日
原告 小川イツ子
右訴訟代理人弁護士 斎藤義夫
被告 国
右代表者法務大臣 赤間文三
右指定代理人 樋口哲夫
<ほか一名>
主文
原告が日本国籍を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者双方の申立て
(原告)
主文同旨
(被告)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求原因
一 原告は、昭和一五年三月二二日本籍地埼玉県北葛飾郡幸手町大字幸手六、二七八番地において、父小川利太郎(日本国民)、母小川まつ(日本国民)の三女として出生し、その頃本籍地の幸手町役場にその旨の届出をした。
二 原告は、昭和三九年四月一五日インドネシア共和国民テイアドル・クテインとの婚姻届を神奈川県川崎市長に提出したところ、同日これが受付けられたので、同人との婚姻が成立したものと信じ、同年四月二〇日インドネシア共和国国籍法七条の規定に基づき、右インドネシア人との婚姻を理由にインドネシア共和国の国籍を取得する旨の意思表示を、在日本国インドネシア共和国大使館においてなした。
三 右のとおり、原告は、自己の志望により外国籍を取得したので、被告は国籍法八条により日本国籍を喪失したとして、昭和三九年四月二八日原告を本籍から除籍した。
四 しかしながら、原告のインドネシア共和国の国籍取得の意思表示は無効であって、原告は、同国の国籍を取得していない。
すなわち、インドネシア共和国籍を有効に取得するためには、「インドネシア共和国民と婚姻した外国人女」であることおよび「婚姻後一年以内に地方裁判所またはインドネシア在外公館において、国籍取得の意思表示をする」ことを要し(インドネシア共和国国籍法七条)、また、インドネシアキリスト教徒については、同国法上「婚姻の意思のない」婚姻は、無効であるところ(インドネシアキリスト教徒婚姻令二条)、テイアドル・クテインは、プロテスタントであって原告と婚姻の意思がなかったものであるから、同人と原告との間の婚姻は無効であり、したがって、原告は、「インドネシア共和国民と婚姻した外国人女」に該当しないから、原告の同国の国籍取得の意思表示も無効である。
五 右の次第で、原告は、インドネシア共和国籍を取得したものでないから、国籍法八条により日本国籍を喪失するいわれはない。
六 しかるに、前記のとおり、被告は原告の日本国籍を争うので、原告は、被告に対し日本国籍を有することの確認を求める。
第三被告の答弁
一 原告の請求原因のうち、第一、第二、第三項の各事実は認める。
二 第四項のうち、インドネシア共和国国籍法七条の規定が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は不知、法律上の主張は争う。
三 第五項は争う。
第四証拠関係≪省略≫
理由
一 請求原因第一、第二、第三項の各事実およびインドネシア共和国国籍法七条の規定によれば、インドネシア共和国の国籍を有効に取得するためには、「インドネシア共和国民と婚姻した外国人女」であることおよび「婚姻後一年以内に地方裁判所またはインドネシア在外公館において、国籍取得の意思表示をする」ことを要する旨が定められていることは当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、原告がインドネシア共和国国籍法七条にいう「インドネシア共和国民と婚姻した外国人女」に該当するか否かについて判断する。
≪証拠省略≫を総合すれば、原告は、インドネシア共和国の留学生テイアドル・クテインと昭和三八年春から同三九年二月一日まで同棲していたが、同人が同月二日帰国した後の同年四月一五日、原告と同人との婚姻届を川崎市役所に提出しこれが受理され、その結果、在日本国インドネシア大使館係官が同年四月二〇日テイアドル・クテインの妻である原告は、同日同国国籍を取得する意思表示をしたことにより、これを取得した旨の国籍証明書を発給したこと、しかし、右婚姻届は原告がテイアドル・クテインの友人であるインドネシア人スータルに代筆を依頼し、テイアドル・クテインに無断でなされたものであることおよびその後、在日インドネシア大使館において、右婚姻届がインドネシア国法上婚姻を適法ならしめるための要件を充たしていないものであると確認されたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。以上認定の事実によれば、原告とテイアドル・クテインとの婚姻は、インドネシア共和国婚姻法上無効のものというべく、したがって、原告は、インドネシア共和国国籍法七条にいう「インドネシア共和国民と婚姻した外国人女」に該当しないものといわなければならない。
三 してみれば、原告は、インドネシア共和国の国籍を取得するに由なく、国籍法八条にいう外国籍を取得した者に当らないから、日本国籍を喪失したものでもないというべきである。
よって日本国籍を有することの確認を求める原告の請求は正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 中平健吉 岩井俊)